雑談がメインで、ゲームのレビューや文章なんかも書いたりする弥太郎のブログです。
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家を出て、少しだけ道なりに行くと、この街唯一の名物の海岸に出る。
彰太は、しばらく海岸の防波堤に腰を掛けて呆けていた。
先ほどそこの駄菓子屋で買った、凍るような冷たさをしたラムネの瓶を空にして、コロコロと転がしている。
風も昼間に比べて涼しくなってきた。
「なにやってるんだろうな。俺は・・・」
はあ、と溜め息を吐く。
由香を置いて家を飛び出してから、だいぶ時間が経っているのが分かる。
気付いたら終わってしまっていた夏休み最後の日を振り返ると、何ら変わり映えのない日で終わってしまった。
結局最後までダラダラと過ごした自分。それに対して自己嫌悪を感じた。
それでも、無情にも終わりゆく一日を少し薄情に思ってしまう。
もう、意味のない日々は終わりにしたい。何度誓ったか分からないこの誓いを再び立てると、立ち上がろうとした。
その時、彼の視界を影が覆った。
「やっぱり、ここでしたね。探しましたよ」
由香だった。
しばらく放っておかれたのを怒って出てきたのか。それならば謝らなければなるまい。
「ああ、由香。ごめんな。少しのつもりがこんなに長くなっちゃってさ」
深々と頭を下げる。
「長い間忘れられていたのは頭に来ますけど、それに対してはそんなに怒ってませんよ」
むぅっと頬を膨らませながらも、実はそれほど気にしてはいない様子の由香は、彰太の隣に座る。
「お菓子を買いに行くって、一体どこまで行ってるんですかあ。まったく」
由香はくすりと笑いながら言う。彼女によれば、彰太が家を飛び出してからすでに三時間も経っているとのことだった。
「そんなに待たせちゃってたのか。本当にごめんな」
もう一度、深々と頭を下げる。
そんな様子を見て、由香はため息をつきながら彰太の手をとって、強く握った。
「たぶんだけど、先輩の考えてることって、先輩の思い過ごしですよ」
「え・・・」
突然、由香がそう言った。
「先輩、夏休みが終わっちゃって、皆と会う機会が減っちゃうのが、心配なんじゃないですか」
言いながら由香は立ち上がる。
さっき由香が自分の手をすごく強く握ったのを思い出す。
もしかしたら、彼女もまた彰太と同じ不安を抱いているのではないか。
由香の横顔を見上げる。夕陽の照り返しを浴びていて、彼女がどんな表情をしているかは分からない。だが、なんとなく哀しげな顔をしていた気がする。
「そうだった。わたし、牧野君に頼まれて先輩を呼びに来たんでした」
牧野というのは、彰太達が属した学校祭の文化祭運営委員の一年生、牧野晋太のことである。彰太は、彼のことをシンと呼ぶ。
「なんでまたシンが俺のこと探してるんだ」
「祥子ちゃんの家で打ち上げをやろうって。おじさんが色々振る舞ってくれるそうです」
夏樹祥子もまた、運営委員の一員であった。彼女の父親が居酒屋を経営していて、今回彰太達に料理を振る舞ってくれるという。
「へえ、なんだか悪い気もするけど。せっかくだからお邪魔しようか。由香はもうおばさんに連絡したのか」
「はい。先輩の家の電話借りましたけどね」
「いや、それはいいけど。俺も母さんに言っとかなきゃ。何時に祥子の家に集合なんだ」
祥子の父が経営する居酒屋「牡丹」は、今彰太のいる海岸からすぐ近く。この街ではかなり活気のある店である。
「牡丹」というのは彼女の母親の名前から取ったという話だ。
祥子の親は、離婚している。
もともと小企業に勤めていた祥子の父親は、その会社の社長と親交があり、その社長の娘と婿養子に入る形で結婚した。
後に、大きな発展を遂げて日本有数の企業となり、彼にはその次期社長が約束されていたという。
そんな、約束された成功をふいにしたのは、彼が夢を諦めきれなかったからである。
しかし、大企業に発展した会社の社長が自分の婿養子にそれを許すはずもない。
彼が夢を志すための代償が妻、牡丹との離婚であった。もちろん、彼らの関係が冷めてしまったわけではない。
祥子自身は今でも毎月母親に会いに行くという。
そこで会話にのぼるのは、いつも父親の話ばかりだという。
「あ、先輩のお母さんが帰ってらしたので先に伝えておきました。だから、このまま行きませんか」
以前、祥子に聞いた話を思い出していると、急に由香に話しかけられて我に返る。
「そっか。それならいいや。じゃあ、行こうか」
彰太は立ち上がり、一度大きく背伸びして、座っている間に鈍った体を無理やり起こす。そして、「牡丹」に向けて歩き出す。
その後ろを、慌ただしく由香がついて来て隣に並ぶ。
「こうやって並んで歩くのって、結構久しぶりですね」
そうやって由香が笑いかける。思えば、由香とふたりで並んでこの海岸を歩くのは随分と久しぶりな気がした。
「そうかもな。学校祭が終わって、しばらく皆で一緒だったもんな。よく考えてみると、お前とふたりでこうやって歩くなんて久しぶりだ」
気がつくと、もう海辺の砂浜を抜けてコンクリートで固められた歩道を歩いていた。そうすると、「牡丹」はもうすぐ目の前だった。
「ああ、由香ちゃんに彰太兄ぃ。なんか久しぶりだね」
「牡丹」の前で水撒きをしていたのか、ホースをもった祥子が彰太達に振り替える。
夏樹祥子は、分かりやすく言えばボーイッシュで、姐さんのような少女だ。面倒見がよくて、それでいてときどき寂しがり屋な面を見せるのがまた面白い少女だ。彰太達運営委員を家族として例えるなら、彼女は長女にあたるだろう。
「おう、久しぶりだな。ちゃんと宿題はやったかよ」
「あははは。あたしゃ彰太兄ぃとは違って、そこんところ真面目だからね。とっくの昔に終わってるよ」
「う、嘘だろ…。第一、一年生って俺達よりも宿題は遙かに多いんだろ」
彰太が大げwさに落ち込んでみせる。それを見て、祥子はまたけらけらと笑いだす。
「まったく。相変わらずね、彰太。ほらほら、さっさと立ちなさい。みっともないじゃないの」
「そうね。ちょっとは他の人の目を気にして欲しいわね、葉山君」
店先でのやり取りを聞きつけたのか、中から篠崎杏と西田紬が顔を出している。
「お、紬も来てたか。久しぶりな。それで、なんで杏がいるんだ…」
「何よ。あたしが来てちゃダメなわけ。いいじゃないのよ、減るもんじゃないし」
「いや、第一お前は実行委員じゃないじゃん」
彰太と杏が睨みあう。
「いあさ、あたしが杏さんも呼んだんだよ。ほら、会長にはお世話になったしさ」
「だーかーらー。言ったでしょ、ね」
誇るかのように杏が言う。ちなみに、後半はにたっ、と悪魔的な笑いを含めていた。
対する彰太も負けずに文句を言い始める。
「また始まったね、あのふたり」
紬が口論を始めた二人を見て言う。
そう、いつものこと。しばらく言い合った後は決まっていつの間にかただの世間話にすり替わる。
杏の兄、良によると昔からこの調子で、顔を合わせれば喧嘩になり、知らないうちに仲直りをしているという。なんとも奇妙な仲だ。
由香にしてみると、この二人の関係は非常に羨ましいものであった。他人でありながら他人という垣根を越えた、幼馴染という関係。由香には決して届かない関係を。
杏と同じように由香が彼に接するとしたら、こうはならない。
どれくらい彼らは世間話に花を咲かせていたのか。最後の来客、彼らの顧問の津田恭哉とその妻、加奈子が到着した。
「どうも。私どもまで招待していただいて光栄です。本当に申し訳ありません」
「本当にありがとうございます。そうです。今回のお礼に足るかどうかは分りませんが、今度祥子ちゃんと一緒に是非うちにいらしてください。誠心誠意おもてなしいたしますわ」
祥子の父親に、ふたりが挨拶をして店に入る。
津田恭哉は、実行委員の顧問をしていて、本来学校では禁止されている時間外活動を恭哉の妻、加奈子が経営する喫茶店「風見鶏」で行っていた。もちろん、学校には完全秘匿でだ。
最初は教師という立場から反対していた恭哉だが、
「あら。頑張ってる生徒さんの見守って、後押ししてあげるのが先生のお仕事じゃないんですか」
という加奈子の一言に負けて恭哉は学校を裏切ることとなる。
話は戻り、「牡丹」では実行委員+αが集まって宴会が始まろうとしていた。
「ああ、そうそう。良はあとで来るみたい。バイトだかがあって今日はまだ終わらないんだって」
「まったく。あいつは受験生としての自覚が足りてるのか」
「いいじゃありませんか。働いて勉強もして、殊勝な心がけじゃありませんか」
相変わらず恭哉は加奈子の尻に敷かれている。
「ではでは、皆さん。今日は集まってくれてありがとうございます。それじゃあ、夏休みは残り一日しかないけど今夜は大いに盛り上がりましょう。乾杯!」
祥子の音頭で一気に店内が活気づく。
八月三十一日、夏休みの最終日。今更騒ぎ立てても、過ぎ去った日々は戻ってこないし、また最後には記憶も薄れて行くのであろう。
それでも、今夜だけは騒がずにはいられない。
彰太も、由香も、杏も、紬も。そえは恭哉でさえも。この一か月は掛け替えのない思い出になった。
彼らは、互いに皆にとって生涯忘れられない仲間となった。
しかしそれを引きずるのではない。だからこその今日の集まり。
明日、九月一日から再びそれぞれが頑張るように。互いが支えあっていけるように。
それを祈りつつ、彰太は先程まで不安に思っていたことを全て払拭するかのように、皆とこの夏休みのことやこれからのことを語り合った。
彰太は、しばらく海岸の防波堤に腰を掛けて呆けていた。
先ほどそこの駄菓子屋で買った、凍るような冷たさをしたラムネの瓶を空にして、コロコロと転がしている。
風も昼間に比べて涼しくなってきた。
「なにやってるんだろうな。俺は・・・」
はあ、と溜め息を吐く。
由香を置いて家を飛び出してから、だいぶ時間が経っているのが分かる。
気付いたら終わってしまっていた夏休み最後の日を振り返ると、何ら変わり映えのない日で終わってしまった。
結局最後までダラダラと過ごした自分。それに対して自己嫌悪を感じた。
それでも、無情にも終わりゆく一日を少し薄情に思ってしまう。
もう、意味のない日々は終わりにしたい。何度誓ったか分からないこの誓いを再び立てると、立ち上がろうとした。
その時、彼の視界を影が覆った。
「やっぱり、ここでしたね。探しましたよ」
由香だった。
しばらく放っておかれたのを怒って出てきたのか。それならば謝らなければなるまい。
「ああ、由香。ごめんな。少しのつもりがこんなに長くなっちゃってさ」
深々と頭を下げる。
「長い間忘れられていたのは頭に来ますけど、それに対してはそんなに怒ってませんよ」
むぅっと頬を膨らませながらも、実はそれほど気にしてはいない様子の由香は、彰太の隣に座る。
「お菓子を買いに行くって、一体どこまで行ってるんですかあ。まったく」
由香はくすりと笑いながら言う。彼女によれば、彰太が家を飛び出してからすでに三時間も経っているとのことだった。
「そんなに待たせちゃってたのか。本当にごめんな」
もう一度、深々と頭を下げる。
そんな様子を見て、由香はため息をつきながら彰太の手をとって、強く握った。
「たぶんだけど、先輩の考えてることって、先輩の思い過ごしですよ」
「え・・・」
突然、由香がそう言った。
「先輩、夏休みが終わっちゃって、皆と会う機会が減っちゃうのが、心配なんじゃないですか」
言いながら由香は立ち上がる。
さっき由香が自分の手をすごく強く握ったのを思い出す。
もしかしたら、彼女もまた彰太と同じ不安を抱いているのではないか。
由香の横顔を見上げる。夕陽の照り返しを浴びていて、彼女がどんな表情をしているかは分からない。だが、なんとなく哀しげな顔をしていた気がする。
「そうだった。わたし、牧野君に頼まれて先輩を呼びに来たんでした」
牧野というのは、彰太達が属した学校祭の文化祭運営委員の一年生、牧野晋太のことである。彰太は、彼のことをシンと呼ぶ。
「なんでまたシンが俺のこと探してるんだ」
「祥子ちゃんの家で打ち上げをやろうって。おじさんが色々振る舞ってくれるそうです」
夏樹祥子もまた、運営委員の一員であった。彼女の父親が居酒屋を経営していて、今回彰太達に料理を振る舞ってくれるという。
「へえ、なんだか悪い気もするけど。せっかくだからお邪魔しようか。由香はもうおばさんに連絡したのか」
「はい。先輩の家の電話借りましたけどね」
「いや、それはいいけど。俺も母さんに言っとかなきゃ。何時に祥子の家に集合なんだ」
祥子の父が経営する居酒屋「牡丹」は、今彰太のいる海岸からすぐ近く。この街ではかなり活気のある店である。
「牡丹」というのは彼女の母親の名前から取ったという話だ。
祥子の親は、離婚している。
もともと小企業に勤めていた祥子の父親は、その会社の社長と親交があり、その社長の娘と婿養子に入る形で結婚した。
後に、大きな発展を遂げて日本有数の企業となり、彼にはその次期社長が約束されていたという。
そんな、約束された成功をふいにしたのは、彼が夢を諦めきれなかったからである。
しかし、大企業に発展した会社の社長が自分の婿養子にそれを許すはずもない。
彼が夢を志すための代償が妻、牡丹との離婚であった。もちろん、彼らの関係が冷めてしまったわけではない。
祥子自身は今でも毎月母親に会いに行くという。
そこで会話にのぼるのは、いつも父親の話ばかりだという。
「あ、先輩のお母さんが帰ってらしたので先に伝えておきました。だから、このまま行きませんか」
以前、祥子に聞いた話を思い出していると、急に由香に話しかけられて我に返る。
「そっか。それならいいや。じゃあ、行こうか」
彰太は立ち上がり、一度大きく背伸びして、座っている間に鈍った体を無理やり起こす。そして、「牡丹」に向けて歩き出す。
その後ろを、慌ただしく由香がついて来て隣に並ぶ。
「こうやって並んで歩くのって、結構久しぶりですね」
そうやって由香が笑いかける。思えば、由香とふたりで並んでこの海岸を歩くのは随分と久しぶりな気がした。
「そうかもな。学校祭が終わって、しばらく皆で一緒だったもんな。よく考えてみると、お前とふたりでこうやって歩くなんて久しぶりだ」
気がつくと、もう海辺の砂浜を抜けてコンクリートで固められた歩道を歩いていた。そうすると、「牡丹」はもうすぐ目の前だった。
「ああ、由香ちゃんに彰太兄ぃ。なんか久しぶりだね」
「牡丹」の前で水撒きをしていたのか、ホースをもった祥子が彰太達に振り替える。
夏樹祥子は、分かりやすく言えばボーイッシュで、姐さんのような少女だ。面倒見がよくて、それでいてときどき寂しがり屋な面を見せるのがまた面白い少女だ。彰太達運営委員を家族として例えるなら、彼女は長女にあたるだろう。
「おう、久しぶりだな。ちゃんと宿題はやったかよ」
「あははは。あたしゃ彰太兄ぃとは違って、そこんところ真面目だからね。とっくの昔に終わってるよ」
「う、嘘だろ…。第一、一年生って俺達よりも宿題は遙かに多いんだろ」
彰太が大げwさに落ち込んでみせる。それを見て、祥子はまたけらけらと笑いだす。
「まったく。相変わらずね、彰太。ほらほら、さっさと立ちなさい。みっともないじゃないの」
「そうね。ちょっとは他の人の目を気にして欲しいわね、葉山君」
店先でのやり取りを聞きつけたのか、中から篠崎杏と西田紬が顔を出している。
「お、紬も来てたか。久しぶりな。それで、なんで杏がいるんだ…」
「何よ。あたしが来てちゃダメなわけ。いいじゃないのよ、減るもんじゃないし」
「いや、第一お前は実行委員じゃないじゃん」
彰太と杏が睨みあう。
「いあさ、あたしが杏さんも呼んだんだよ。ほら、会長にはお世話になったしさ」
「だーかーらー。言ったでしょ、ね」
誇るかのように杏が言う。ちなみに、後半はにたっ、と悪魔的な笑いを含めていた。
対する彰太も負けずに文句を言い始める。
「また始まったね、あのふたり」
紬が口論を始めた二人を見て言う。
そう、いつものこと。しばらく言い合った後は決まっていつの間にかただの世間話にすり替わる。
杏の兄、良によると昔からこの調子で、顔を合わせれば喧嘩になり、知らないうちに仲直りをしているという。なんとも奇妙な仲だ。
由香にしてみると、この二人の関係は非常に羨ましいものであった。他人でありながら他人という垣根を越えた、幼馴染という関係。由香には決して届かない関係を。
杏と同じように由香が彼に接するとしたら、こうはならない。
どれくらい彼らは世間話に花を咲かせていたのか。最後の来客、彼らの顧問の津田恭哉とその妻、加奈子が到着した。
「どうも。私どもまで招待していただいて光栄です。本当に申し訳ありません」
「本当にありがとうございます。そうです。今回のお礼に足るかどうかは分りませんが、今度祥子ちゃんと一緒に是非うちにいらしてください。誠心誠意おもてなしいたしますわ」
祥子の父親に、ふたりが挨拶をして店に入る。
津田恭哉は、実行委員の顧問をしていて、本来学校では禁止されている時間外活動を恭哉の妻、加奈子が経営する喫茶店「風見鶏」で行っていた。もちろん、学校には完全秘匿でだ。
最初は教師という立場から反対していた恭哉だが、
「あら。頑張ってる生徒さんの見守って、後押ししてあげるのが先生のお仕事じゃないんですか」
という加奈子の一言に負けて恭哉は学校を裏切ることとなる。
話は戻り、「牡丹」では実行委員+αが集まって宴会が始まろうとしていた。
「ああ、そうそう。良はあとで来るみたい。バイトだかがあって今日はまだ終わらないんだって」
「まったく。あいつは受験生としての自覚が足りてるのか」
「いいじゃありませんか。働いて勉強もして、殊勝な心がけじゃありませんか」
相変わらず恭哉は加奈子の尻に敷かれている。
「ではでは、皆さん。今日は集まってくれてありがとうございます。それじゃあ、夏休みは残り一日しかないけど今夜は大いに盛り上がりましょう。乾杯!」
祥子の音頭で一気に店内が活気づく。
八月三十一日、夏休みの最終日。今更騒ぎ立てても、過ぎ去った日々は戻ってこないし、また最後には記憶も薄れて行くのであろう。
それでも、今夜だけは騒がずにはいられない。
彰太も、由香も、杏も、紬も。そえは恭哉でさえも。この一か月は掛け替えのない思い出になった。
彼らは、互いに皆にとって生涯忘れられない仲間となった。
しかしそれを引きずるのではない。だからこその今日の集まり。
明日、九月一日から再びそれぞれが頑張るように。互いが支えあっていけるように。
それを祈りつつ、彰太は先程まで不安に思っていたことを全て払拭するかのように、皆とこの夏休みのことやこれからのことを語り合った。
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8月31日。
つまるところ夏休みの最終日。
それで、彼らはと言うと、たまりにたまった宿題に追われていた。
原因は大きく分けるとふたつ。
ひとつは、彼、葉山彰太自身がやや不真面目であること。
彼にとって、小学生の頃から宿題は始業式前日に片付けるのが当たり前だった。
そしてふたつ目。彼等の高校の生徒にしてみればこれが最大の原因、学園祭の準備である。
彰太の恋人、湯浅由佳は学校の成績で言えば学年の中でもかなり上である。
その彼女がこうして夏休みの最終日になっても彰太と共に机に向かっているのは、例に違わず学園祭の実行委員として活動していたからである。
「あー、くそ。なんつーか、あれだけ頑張ったってのに、その後に待ってるのがこれだもんな…嫌になるよ」
こんな風に悪態をついている彰太自身も、学園祭実行委員のひとりだった。
「仕方ないですよ。夏休みの始めにやっておかないからですよ」
今年は私も遊びすぎちゃいましたけどね。と付け足して再び視線をノートに向ける。
「はぁ…」
真面目に机に向かう由佳に対して、彰太は大きく溜め息をついて机にアゴを乗せる。
「しっかりしてくださいよ、彰太先輩。先輩は受験勉強だって残ってるんですから」
由佳に言われて、少しだけいじけたように顔を机に伏せる。
「まぁ、わかってるんだけどさ…」
本当のところ、彼の心は揺れていた。
この昭和という時代に、嫌気がさす。
大学受験なんて、将来、就職を考えたときの踏み台でしかない。
確かに、勉強して有名な大学に入れば、その後に控える就職に非常に有利になる。
だが、それでよいのか。
多くの大人達がこの町を捨てたように、自分もここを捨てるのか。
彼は、この町が好きだった。彼にとっての故郷、それも理由のひとつである。しかし、それだけでもないことも確かだ。
海辺の、海水浴くらいしか人の興味をひくものはなく、寂れた簡素な町。むしろ村と呼ばれるのが近しい感じの町であるが、それでも彼はここが好きだった。
それは、由佳にしてみても同じらしい。
「うまくは言えないけど、やっぱり好き…なのかな。都会に出ていくのも、未開の地への冒険みたいに思えるけど…うん。ここも、やっぱりいいところだよ」
一度、由佳に進路の相談をしてみた時に、彼女はこう言った。
大学への進学。それはつまるところ大人に対しての建前だ。
大学に進学する。そう言っていれば周りから白い目を向けられることもない。
ただ適当に受験をして、そのまま地元で就職しよう。そう思っていた。
彼は、ここぞというところや、人がやらないような、妙なことに対しては並々ならぬ努力をする人間だった。
だからという訳ではないが、受験に対しての努力を自ら怠るこ
とに、怒りというか、彼にとって屈辱に似た感情を感じるものであった。
自分で腹をくくったことなのに情けない。そう思いながら、長らく伏せた顔を上げてもう一度たまった宿題の山に目を向ける。
高校を出てすぐに就職するのなら、大学は受けれない。だけど、
青春というノートがあと数ページで終わってしまうかと思うと、それはそれで急に切なくなる。
「なあ、由佳」
ふいに声をかけてしまったのに気づき、慌てて話題を考える。
「もしも、さ。俺が浪人してもう一年頑張って、由佳と同じ大学に行くって言ったらどう思う。やっぱり怒るか」
ふいに思いついた提案ながら、それもありか。と考える。
「だめですよ。それは私にとって嬉しいことではありますが、それを望むのは、私のわがままになっちゃいます」
やや拒絶の色を示しながらも、それも何だか面白いですけどね。と付け足してくれたのは、彼の心を安堵させた。
「まあさ。なるようにしかならないよ。そうなった時はまた一年頑張るからさ」
「先輩の場合、それを狙ってやりそうです」
間髪入れずそう返される。
こうした、ここ最近のいつもの対話にも、なぜか安心してしまう。
また今日も、繋がってる。皆との、由佳との絆。それを毎日噛み締めてはいるが、いざひとりになるととてつもなく不安になってしまう。
自分は、こんなにも脆かっただろうか。色々と考えこんでしまう。
その不安を払拭するかのように、鉛筆を取り難解な数学の問題に向かう。
「はは…明日からまた学校か。嫌んなるな…」
「先輩、それ口癖ですか。何もしないうちに嫌になっていたら何もできませんけど」
間髪入れず、由佳に怒られた。
もうすぐ、終わり。長くて短かった、楽しい夏休み。
夏休みが終わってしまえば全部終わり。学年が違えば当然なかなか会えないし、また今までみたく集まることもできない。
(何だか、やるせないな…。こんな気分は初めてかもしれない…)
「ごめん、なんか勉強が捗らないからちょっとお菓子でも買ってくる」
彼の人生で、おそらく初めて感じるであろう気持に少し照れて、それを隠すために家を飛び出した。
つまるところ夏休みの最終日。
それで、彼らはと言うと、たまりにたまった宿題に追われていた。
原因は大きく分けるとふたつ。
ひとつは、彼、葉山彰太自身がやや不真面目であること。
彼にとって、小学生の頃から宿題は始業式前日に片付けるのが当たり前だった。
そしてふたつ目。彼等の高校の生徒にしてみればこれが最大の原因、学園祭の準備である。
彰太の恋人、湯浅由佳は学校の成績で言えば学年の中でもかなり上である。
その彼女がこうして夏休みの最終日になっても彰太と共に机に向かっているのは、例に違わず学園祭の実行委員として活動していたからである。
「あー、くそ。なんつーか、あれだけ頑張ったってのに、その後に待ってるのがこれだもんな…嫌になるよ」
こんな風に悪態をついている彰太自身も、学園祭実行委員のひとりだった。
「仕方ないですよ。夏休みの始めにやっておかないからですよ」
今年は私も遊びすぎちゃいましたけどね。と付け足して再び視線をノートに向ける。
「はぁ…」
真面目に机に向かう由佳に対して、彰太は大きく溜め息をついて机にアゴを乗せる。
「しっかりしてくださいよ、彰太先輩。先輩は受験勉強だって残ってるんですから」
由佳に言われて、少しだけいじけたように顔を机に伏せる。
「まぁ、わかってるんだけどさ…」
本当のところ、彼の心は揺れていた。
この昭和という時代に、嫌気がさす。
大学受験なんて、将来、就職を考えたときの踏み台でしかない。
確かに、勉強して有名な大学に入れば、その後に控える就職に非常に有利になる。
だが、それでよいのか。
多くの大人達がこの町を捨てたように、自分もここを捨てるのか。
彼は、この町が好きだった。彼にとっての故郷、それも理由のひとつである。しかし、それだけでもないことも確かだ。
海辺の、海水浴くらいしか人の興味をひくものはなく、寂れた簡素な町。むしろ村と呼ばれるのが近しい感じの町であるが、それでも彼はここが好きだった。
それは、由佳にしてみても同じらしい。
「うまくは言えないけど、やっぱり好き…なのかな。都会に出ていくのも、未開の地への冒険みたいに思えるけど…うん。ここも、やっぱりいいところだよ」
一度、由佳に進路の相談をしてみた時に、彼女はこう言った。
大学への進学。それはつまるところ大人に対しての建前だ。
大学に進学する。そう言っていれば周りから白い目を向けられることもない。
ただ適当に受験をして、そのまま地元で就職しよう。そう思っていた。
彼は、ここぞというところや、人がやらないような、妙なことに対しては並々ならぬ努力をする人間だった。
だからという訳ではないが、受験に対しての努力を自ら怠るこ
とに、怒りというか、彼にとって屈辱に似た感情を感じるものであった。
自分で腹をくくったことなのに情けない。そう思いながら、長らく伏せた顔を上げてもう一度たまった宿題の山に目を向ける。
高校を出てすぐに就職するのなら、大学は受けれない。だけど、
青春というノートがあと数ページで終わってしまうかと思うと、それはそれで急に切なくなる。
「なあ、由佳」
ふいに声をかけてしまったのに気づき、慌てて話題を考える。
「もしも、さ。俺が浪人してもう一年頑張って、由佳と同じ大学に行くって言ったらどう思う。やっぱり怒るか」
ふいに思いついた提案ながら、それもありか。と考える。
「だめですよ。それは私にとって嬉しいことではありますが、それを望むのは、私のわがままになっちゃいます」
やや拒絶の色を示しながらも、それも何だか面白いですけどね。と付け足してくれたのは、彼の心を安堵させた。
「まあさ。なるようにしかならないよ。そうなった時はまた一年頑張るからさ」
「先輩の場合、それを狙ってやりそうです」
間髪入れずそう返される。
こうした、ここ最近のいつもの対話にも、なぜか安心してしまう。
また今日も、繋がってる。皆との、由佳との絆。それを毎日噛み締めてはいるが、いざひとりになるととてつもなく不安になってしまう。
自分は、こんなにも脆かっただろうか。色々と考えこんでしまう。
その不安を払拭するかのように、鉛筆を取り難解な数学の問題に向かう。
「はは…明日からまた学校か。嫌んなるな…」
「先輩、それ口癖ですか。何もしないうちに嫌になっていたら何もできませんけど」
間髪入れず、由佳に怒られた。
もうすぐ、終わり。長くて短かった、楽しい夏休み。
夏休みが終わってしまえば全部終わり。学年が違えば当然なかなか会えないし、また今までみたく集まることもできない。
(何だか、やるせないな…。こんな気分は初めてかもしれない…)
「ごめん、なんか勉強が捗らないからちょっとお菓子でも買ってくる」
彼の人生で、おそらく初めて感じるであろう気持に少し照れて、それを隠すために家を飛び出した。
早速ですが、新作のタイトルはカテゴリの名前の通りに海唄‐UMIUTA‐です。
とりあえず隔週で更新予定。
パソコンが手に入るまではこちらが中心。
そのあとはScarlet Crossと海唄を隔週のローテーションで行きたいと思います。
また口だけにならないように頑張ります。
とりあえず来週月曜日~火曜日で海唄の第一回を、2週後に第二回。
その翌週にScarlet Cross再開ですね。
Scarlet Crossが何なのか分からない方がいらっしゃれば、同カテゴリを参照下さい。
とりあえず隔週で更新予定。
パソコンが手に入るまではこちらが中心。
そのあとはScarlet Crossと海唄を隔週のローテーションで行きたいと思います。
また口だけにならないように頑張ります。
とりあえず来週月曜日~火曜日で海唄の第一回を、2週後に第二回。
その翌週にScarlet Cross再開ですね。
Scarlet Crossが何なのか分からない方がいらっしゃれば、同カテゴリを参照下さい。